丹沢山地にあるシダンゴ山は、気軽に楽しめる低山ハイキングコースとして人気の山です。春になるとロウバイやアセビが咲き誇り、花を目当てに多くのハイカーが訪れます。名前の由来は、かつてこの山に仙人が住んでいたという伝説から。どんな仙人だったのか、歩きながら想像を膨らませるのもこの山の楽しみのひとつです。今回は、春の陽気に誘われて、宮地山を経由してシダンゴ山を歩く日帰り登山レポートをお届けします。
シダンゴ山の基本情報
シダンゴ山は、神奈川県・丹沢山地に位置する標高758mの山。まず気になるのは、少し不思議な響きを持つ「シダンゴ山」という名前です。初めは「アイヌ語かな?」と勝手に想像してしまいましたが、調べてみるとまったく違うルーツがありました。
「震旦郷山(しだんごやま)」という漢字表記が示す通り、由来はなんと飛鳥時代にまでさかのぼります。この地には仏教を伝えたとされる仙人が住んでおり、その名が「シダゴン」。いつしか「シダンゴ」と呼ばれるようになったのが、山名の由来だそうです。
さらに興味深いのが「震旦郷」という地名。「震旦(しんたん)」は古代中国の呼称で、インドで中国を「秦(チン)の地」と呼んだことに由来する言葉。実際に1950年代まで「震旦大学」という大学が中国に存在していたことからも、歴史的な背景を感じさせます。
こうした伝承や漢字の意味を重ねると、かつてこの山にいた仙人が中国からやってきた人物だったのでは…と想像が膨らみます。同じ丹沢の塔ノ岳(かつては「尊仏山」と呼ばれていた)にも似た仙人伝説が残っており、丹沢の山々を舞台にした“仙人譚”が語れそうですね。
今回のシダンゴ山の山行計画

- 山名:シダンゴ山(しだんごやま)
- 標高:758m
- 出発地:田代向バス停
- 標高差:約520m
- 歩行距離:約6.4km
- 歩行時間:約3時間5分(休憩含まず)
- 注意点:途中に売店はありません。飲み物や行動食は事前に準備を。
今回歩いたのは、松田町の公式サイトでも紹介されている王道ルート。田代向バス停から宮地山を経由して、シダンゴ山の山頂を目指す日帰りコースです。
アクセスは公共交通機関を利用するのが基本で、小田急線「新松田駅」から富士急湘南バスに乗り、「田代向バス停」で下車(約20分)します。バスの本数が限られているため、事前に時刻表を確認しておくことが大切です。
新松田駅にはコンビニや自販機もありますが、混雑や乗り遅れを避けるためにも、登山装備や食料などは出発前に準備しておくのがおすすめです。
また、車でアクセスする場合は、スタート地点とゴール地点が異なるため、新松田駅周辺に駐車して公共交通を併用するのがスムーズです。寄(やどりき)から逆ルートで登る場合は、「寄自然休養村管理センター」付近の寄登山口駐車場が利用できます。
※登山計画はとても重要です。必ずご自身でも確認してから登山を楽しみましょう。
シダンゴ山の登山開始!田代向バス停からスタート

田代向バス停から宮地山登山口までは、のどかな里山の風景が続きます。「寄」と書いて「やどりき」と読むこの地域は、人口約2,300人。田畑や季節の野花が広がる道を歩くだけでも、自然のやさしさに包まれるような時間が流れます。
寄(やどりき)の里山風景を味わう

道中には、この地域の氏神を祀る「寄神社」もあります。境内には「かながわの名木100選」にも選ばれた「寄神社の大スギ」がそびえ、その幹の空洞には、安産の神である火遠理命(ほおりのみこと)と、その妻豊玉姫(とよたまひめ)の双体神が祀られています。
また、毎年3月には「寄神社例大祭」が行われ、花笠で飾られた4台の山車や神輿が集落を練り歩き、豊作と安全を祈願する歴史あるお祭りとして地域に根付いています。
登山道へと向かう道中で、こうした土地の文化や人々の暮らしにふれることができるのも、このコースならではの魅力です。
宮地山登山口に到着

田代向バス停からのんびり歩いて10〜15分ほどで、宮地山の登山口に到着します。道中には案内標識も点在しており、はじめての道でも安心。田んぼや畑が広がる道を進むうちに、少しずつ登山モードへと気持ちが切り替わっていきます。
宮地山を目指して、気持ちのいい山道を歩く

登山口を過ぎると、林に囲まれた穏やかな登山道が続きます。急な登りや滑りやすい場所はほとんどなく、道もよく整備されているため、初めての人でも歩きやすい印象です。
この日は春らしい気候で、日なたでは少し汗ばむものの、木陰に入ると心地よい風が吹き抜けてきました。足元には小さな花が咲き、木々の間から差す日差しに季節の変わり目を感じます。
丹沢エリアの登山道は全体的に手入れが行き届いていることで知られていますが、このコースもその例にもれず、快適に歩けます。ところどころで木々の合間から遠くの山並みが見えるなど、静かで飽きのこない道のりです。
登るうちに体が温まり、呼吸も自然と深くなってきます。静かな山の中を、特別なことが起きるわけでもなく、ただ歩いていく——そんな時間こそが、登山の魅力だとあらためて感じました。
このままゆるやかな坂道をたどりながら、宮地山の山頂を目指します。
春と秋がおすすめ。6月以降はヤマビルにご用心
丹沢の山を歩くとき、いつも少しだけ頭に入れておきたいのがヤマビルの存在。シダンゴ山も例外ではなく、梅雨時期から夏場にかけては特に注意が必要です。
なぜ丹沢でヒルの話をよく耳にするのか——調べてみると、どうやらシカの増加が関係しているようです。ヤマビルは動物に付いて移動すると言われていて、野生動物の行動範囲の広がりとともに、人の歩く道にも現れるようになったのだとか。
僕自身はまだ被害にあったことはありませんが、「いつの間にか吸われていて、靴の中や脇腹が真っ赤だった」という話を聞くと、やっぱり油断は禁物。6月以降や雨のあとには、防虫スプレーや長ズボンなど、備えをしておくと安心です。
この日は5月初旬、天気も良く、ヒルに出会うこともなく気持ちよく歩くことができました。春や秋の乾いた空気の中で、静かな山を楽しめるのは丹沢の魅力のひとつ。ヤマビルの活動が落ち着く3〜5月中旬、10〜11月頃が、いちばんの狙い目です。
宮地山の頂上から、シダンゴ山へ向かう

田代向バス停から歩き始めておよそ40分。草花が咲く登山道を進みながら、宮地山の頂上に到着しました。登山口からここまではなだらかな道が続き、初心者でも安心して歩ける行程です。
山頂は木々に囲まれ、見晴らしがあるわけではありませんが、周囲の静けさが心地よく、しばし足を止めて深呼吸したくなるような場所です。あたりには鹿よけのフェンスがいくつも設置されていて、このあたりのシカの多さを物語っていました。

ここで水分補給と軽い行動食をとり、次の目的地であるシダンゴ山へと歩を進めます。道中は緩やかなアップダウンを繰り返すコースで、特に危険な箇所もなく、軽快に歩き続けられます。
しばらく進むと、徐々に空が開けてくるポイントもあり、歩くごとに変わる景色が気分を盛り上げてくれます。宮地山からシダンゴ山へと続くこの区間は、全体的に穏やかな雰囲気で、山歩きの楽しさをじっくり味わえるルートです。
シダンゴ山頂上へ!寄の集落と丹沢の山々を眺める

登山道を進み、最後に待ち構えるのはお約束ともいえる長い階段。少し息が上がる頃、シダンゴ山の山頂にたどり着きました。標高758mの低山ながらも、頂上からの眺めは予想以上に開けていて爽快です。

この日は天気にも恵まれ、足元には寄の集落、遠くには丹沢の山々が連なり、さらに空気が澄んでいれば富士山や相模湾まで見渡せるそうです。頂上のスペースは広すぎず狭すぎず、木製のベンチも設置されていて、落ち着いて休憩するにはちょうどいい雰囲気でした。
山頂には寄神社の元宮とされる石の祠もひっそりと鎮座しています(写真を撮り忘れました…)。
山頂で山ごはん!気分はイタリアン

今回の山行の目的のひとつが、山ごはん。妻の提案で「ピザ」と「ミネストローネ」を作ることにしました。荷物にバーナーやクッカーを詰め込んで持参した食材を温め、青空の下でいただく食事は格別です。

風もなく穏やかなコンディションだったため、調理もスムーズに進みました。出来立てのスープとピザで、しっかりお腹を満たすと、自然と笑顔もこぼれます。
寄バス停に向けて下山開始

ゆっくり休憩を終えたあとは、寄バス停へ向かって下山を開始します。道中はよく整備された雑木林の中を歩くルートで、傾斜もきつすぎず、1時間ほどで下りきることができます。
歩きながら、たわいのない話をしていると、どこからかマイクの音声のようなものが聞こえてきました。音の正体はすぐに分からなかったのですが、「お祭りかな?」という予感がふくらみ、自然と足取りも軽くなっていきます。
寄にある中津川で鯉のぼりが空を泳ぐ

集落が近づくにつれ、音の正体が見えてきました。ちょうど5月5日のこどもの日。寄地区を流れる中津川の上には、大きな鯉のぼりが何本も泳いでいました。
川沿いの広場には屋台が並び、地元の子どもたちや観光客でにぎわっており、まさに春のお祭りといった雰囲気です。バスの時間を確認してから、かき氷とフランクフルトを手に、下山のごほうびとして味わいました。気づけば童心に返ったように、自然とはしゃいでいました。
山の静かな道を歩き、頂上で景色とごはんを楽しみ、帰り道では地元の人たちのにぎわいに触れる。そんな一つひとつの場面が心に残る、充実した一日でした。
シダンゴ山は、登る楽しさも、ふもとのあたたかさも、どちらも味わえる山。春や秋の晴れた日に、またゆっくり歩きに来たいと思います。
シダンゴ山の登山の様子を動画でも紹介中!
今回のシダンゴ山登山の様子は、動画にもまとめています。春の山の雰囲気や登山道の様子を、リアルに感じてもらえる内容になっていると思います。これから訪れてみたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
シダンゴ山を歩いた感想
「白いお馬にめされた弥勒、弥勒やしろの春祭り」
寄で伝えられてきた民謡の一節です。シダンゴ山の頂上から中津川へと、弥勒菩薩が飛び降りたという伝説。そのときの馬のひづめの跡が、河原の大きな石に今も残っているといいます。麓の寄神社はかつて弥勒堂と呼ばれていたそうで、古くからこの地に語り継がれる物語が、いまも人々の暮らしの中に息づいています。
今回の山歩きでは、そんな言い伝えにふれながら、地域の文化や風景をじっくり味わうことができました。気づけば、それ自体が心に残る一日になっていました。
経験が浅い仲間と歩くにもぴったりな、穏やかなコースとあたたかな人の気配。シダンゴ山は、登るほどに好きになる、そんな山でした。
HIKES編集長の里山トラベル
訪れた里山での気づきや、日常の延長にある自然とのふれあいを記録しています。今回のシダンゴ山のような山歩きのワンシーンをXでも発信してます。よろしければフォローお願いします。
初めての登山は、埼玉県秩父市にある琴平丘陵の尾根道をたどるコースでした。装備のことなんて何も知らず、ただのスニーカーに、普通のTシャツとパンツという、今思えば無謀とも言える姿で山に向かいました。… pic.twitter.com/HdCJmwtXWn
— miya|HIKES編集長 (@miya_hike) August 18, 2024