【御岳山】ロックガーデン山歩き。ゆっくり歩くと見えてくる「小さな世界」

東京都・奥多摩にある御岳山。ロックガーデンと呼ばれる沢沿いを歩くコースは東京屈指の癒しスポットです。夏には涼を、秋には見事な紅葉が私たちを迎えてくれます。

御岳山には何度か訪れたことがありますが、今回は「山の自然学(小泉武栄 著)」に影響され、いつもよりゆっくり歩いて「山」を見たいという想いで出発しました。「山の自然学」は、山の植物や動物、生態系について詳しく解説している本で、山歩きの楽しみ方や自然観察のポイントを教えてくれます。

この本を読んだおかげで、今回の御岳山ロックガーデンの山歩きは新しい発見に満ちたものになりました。それでは、その様子をご紹介します。

【御岳山】ロックガーデンのコース(日帰り)

 今回のコースは、JR「奥多摩駅」からバスで「ケーブルカー下」まで行き、そこからケーブルカーを利用して「御岳山駅」へ向かいます。御岳山駅からは以下のコースを歩きました。

【日付】2017年7月29日(土)

【天気】曇り

【コース】御岳山駅 → 産安社 → 御岳ビジターセンター → ロックガーデン周遊 → 日の出山 → つるつる温泉

自然の美しさと歴史的なスポットを楽しむことができる、日帰りに最適なプランです。

日本一の群生を誇る御岳山のレンゲショウマ

今回の山歩きのメインは何といっても日本一の群生を誇る「レンゲショウマ」を見ることです。御岳山ビジターセンターからの事前情報では、咲いているのが1割ほどということでしたが、そのことを踏まえつつも山歩きをスタートします。

レンゲショウマ祭りと登山届の提出

御岳山にある富士峰園地ではレンゲショウマ祭りが開催されています。祭りといっても何か催しがあるわけではなさそうでしたが、この日はケーブルカー乗り場付近にある御岳平で東京都レンジャーの方々による登山届の提出を呼びかける活動が行われていました。山では何が起きるかわからないのでとても良い活動だなあと感心し、私も登山届を提出しました。

富士峰軒というおみやげ屋さんの右からレンゲショウマの群生がある場所へ向かいます。レンゲショウマ目当てに大きなカメラを持った方をちらほら見かけましたが、思ったより人は少ない様子。まぁ、天気も良くないし御岳山ビジターセンターからの情報でもまだまだ咲いていないということがわかっていたので納得です。

咲いていないレンゲショウマの魅力

どこか咲いているところないかなぁと、まわりをうろうろしていると、通りすがりの老夫婦に声をかけられました。

「こんにちは、全然咲いてないよ」

「あっちの方にちらほらあるだけ」

山では都会と違って気軽に声を掛け合う風習があります。今でこそ気軽に話すことができるようになりましたが、登山を始めて間もない頃はすれ違う度に「こんにちは」と挨拶するのが少し恥ずかしい思いがあったものです。

老夫婦に「ありがとうございます」とお礼を述べ、少し咲いているだろうレンゲショウマへと向かいます。足を止めてよ〜く見ると「咲いていないレンゲショウマって美しいなあ」と、ふと感じました。日本一と呼ばれる群生が後押ししてることもありますが、レンゲショウマの蕾(つぼみ)の集合体が、ものすごく小さな世界を作り上げていることに気づきました。

今まさに花開こうとするその姿から「もうちょっと待っててね」と語りかけられてるようで、小さいながらもたくましく、神秘的な美しさがそこに確かにありました。この気づきはレンゲショウマ=「花」という認識では気づかなかったと思います。咲いてなくてもレンゲショウマはレンゲショウマなんです。

この小さな世界を上手く写真で表現したいと思い、カメラでバシャバシャ撮ります。

良い構図にしようと角度を変えたり、近づいたりと試みる。客観的に見ると変な体勢だったのでどんな撮り方してるんだと思われてたかもしれません。

いくつか撮影した中で花が咲いていないレンゲショウマの小さな世界観が一番表現できたのがこの写真。

よーく見ると無数の小さな蕾が一つの星のように見え、小宇宙を作っているように見えませんか?

この魅力が少しでも伝われば嬉しいです。

可憐に咲くレンゲショウマの美しさ

そして、わずかに咲いていたレンゲショウマがこちらです。

レンゲショウマ

淡い紫色の花を下向きに咲かせるレンゲショウマの花言葉は「伝統美」。伝統美とは伝統によって培われた美しさという意味ですが、レンゲショウマをじっくり見るとその意味も納得です。可憐さの中に「凛」とした雰囲気を漂わせ、細かく作り込まれた伝統工芸品を見ているかのように見えてきます。

何枚か撮影した後、レンゲショウマの世界に若干名残り惜しい気持ちを抱えつつ次の目的地へと向かいます。

産安社(うぶやすしゃ)へ訪問

産安社(うぶやすしゃ)

安産祈願・子宝・縁結び・長寿の神として信仰のある産安社。御岳山には何回も訪れてますが、産安社へは今回が初めてだったので「こんなところにあったのか」と驚きました。産安社の歴史を調べると、非常に興味深いことがわかります。

木花開耶毘売命(このはなさくやひめ)の伝説

御祭神は木花開耶毘売命(このはなさくやひめ)で、日本の木の花の代表である「桜」の美しさを象徴している女神と言われています。山の神、火の神、酒造の神としても崇められています。また、同じく御祭神として石長比売命(いわながひめ)、息長帯比売命(おきながたらしひめ)も祀られています。

木花開耶毘売命は、富士山の神さまとして富士山本宮浅間神社(静岡県)ほか1000以上の浅間神社に祀られています。では、なぜここに祀られているのでしょうか。この辺りの山は江戸時代に「浅間山」と呼ばれ、冨士浅間神社とされていたことが由来だそうです。

なるほど、御岳平にあったおみやげ屋さんやレンゲショウマの群生がある一帯の名前に「富士」がついている理由に納得です。この土地から富士山と繋がりがあるなんて、山の脈絡は面白いですね。木花開耶毘売命の神話については、こちらのサイトが参考になります。

External Link Icon木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)「日本神話の世界」

産安社の神木

産安社にはご利益のある3つの大きな神木があります。

子授け檜

二股に開かれた根本と、そこへ突き刺さる幹は、男女和合のしるしとされています。また、右上の勾玉型のコブは子宝を表しているといわれています。子宝を祈念しながら幹のコブを、男女の末永い和合を祈念しながら根元や幹を軽くさすると、御利益があるとされています(武蔵御嶽神社より引用)。

夫婦杉

夫婦杉

ふくよかなコブが多くある方が「女杉」、もう一方が「男杉」といわれ、2本が繋がりあって仲睦まじく立っている姿から夫婦杉と呼ばれています。二人手をつなぎながら木の間を通るといっそう円満になり、男性は女杉を、女性は男杉を触りながら木の間を通ると良縁に恵まれるといわれています(武蔵御嶽神社より引用)。

安産杉

安産杉

どっしりと力強く根を張る姿は長寿を表し、丸く包み込むように開かれた幹は安産を、その幹より分かれて延びる数々の枝は子孫繁栄を表しているといわれています。長寿・安産・お子様の健やかな成長を祈念しながら幹や根を軽くさすると、御利益があるとされています(武蔵御嶽神社より引用)。

この日は、安産祈願や子宝を願う若い夫婦が訪れており、お参りの後、各神木を巡っていました。

タマアジサイ

産安社近辺には、この時期ならではの「タマアジサイ」や「ヤマユリ」が咲いており、ヤマユリはユリの中で最も大きく、ユリの王様と呼ばれています。間近で見るとその大きさに圧巻されます。

御岳山ビジターセンター

ロックガーデンに行く前に、もう一つ立ち寄りたい場所がありました。それは御岳山ビジターセンターです。ビジターセンターは、山の自然について学ぶのに最適な施設で、国立公園や国定公園など各地に建てられています。

御岳山ビジターセンターでは、御岳山に関する歴史資料や現在の情報を知ることができます。ちょうど子どもたちに「蜂」について説明しているところで、私もなるほどと興味深く耳を傾けました。特に面白かったのが、蜂とアブの特性の違いです。蜂は止まっていると刺してこないのに対して、アブは止まっていると刺してくるという(アブは刺すというより噛むらしいです)。では、「どうすればいいのか」となるわけですが、蜂とアブを見分けることが大事だそうです。これがなかなか難しそうです。

ビジターセンターのスタッフからは様々な話を聞くことができ、とても有意義な時間を過ごせました。御岳山に関する膨大な資料がファイルに収められており、すべてを見ていたかったのですが、時間も限られているためざっと目を通すだけにしました。

一つ気になったのは、ニホンジカの増加が山の生態系に影響を与える可能性があるという情報です。まだ調査段階ではありますが、シカが増えるとその分食料が必要になり、草木が減りすぎることで他の影響が出るかもしれないということです。今後の動向を注視する必要があります。

御岳山ビジターセンター:ホームページ

ロックガーデンを周遊。緑の世界を歩く

天狗岩

御岳山のロックガーデンは沢沿いを歩くので、夏には「涼」と「癒し」を求めて多くの人が訪れます。登山道もしっかり整備されているので安心して歩くことができます。コースの見所も満載で、「七代の滝」「天狗岩」「綾広の滝」などお楽しみスポットがあるのも魅力です。

夏のロックガーデンはとても美しく、下は苔(コケ)の緑、上は木の緑に包まれ、まるで「緑の世界」を歩いているような錯覚に陥ります。雨に濡れた植物がこれまた情緒的に映り、御岳山ロックガーデンの中に深く、深く入って行く感覚が心地よく感じる。

この時間が私はすごく好きで、思考が研ぎすまされるというか、頭も体も日常と非日常の境目を行ったり来たりすることで余計な雑音がどんどん聞こえなくなり、一番重要なことだけが残ります。山に行くと頭の中が整理され、くだらないことはすぐ消えてなくなり「必要なことだけに集中しなさい」と山から教えられている気がします。

人の手で守られる自然

このロックガーデンが今のように歩きやすく、自然豊かな場所になっているのは、実は人の手で管理されているからなんです。というのもロックガーデンは東京緑地計画協会が認定する37の景園地の一つとして選定されています(名称:奥御岳景園地)。

景園地とは、風景地を全体として公園化することなく、最小限の利用施設を設置するだけで保全を図ろうとした内務省の計画です。(東京都教育庁地域教育支部より引用)「最小限の利用施設」というのが綾広の滝から七代の滝までの遊歩道を含んでおり、過度な整備をせずに景観を保持しながら楽しむことができるように設計されています。

山は人のものではないので「山に入らせてもらっている」という感謝の気持ちがここに現れている気がします。そもそも山に行かなければいいじゃないかと言われたらそれまでですが。

ロックガーデン

ロックガーデンを楽しんだ後は日の出山に向かいます。この日は午後3時から雨が降る予報でしたので、お昼ご飯を食べた後、少し早歩きで日の出山を目指しました。

最後の楽しみ「つるつる温泉」

日の出山を経由したあと、最後の楽しみは温泉ですね。今回はお肌もつるつるになるという「生涯青春の湯 つるつる温泉」へ向かいます。

日の出山からつるつる温泉までの道は、最近登山道が整備されたのか、以前よりも時間を短縮して行けるようになっています。安全を考慮してのことだと思いますので、整備された方に感謝ですね。

つるつる温泉には過去1回しか行ったことがなく、めちゃくちゃ気持ちよかったという記憶しかありません。なので絶対また行きたいと思っていたので念願が叶い嬉しい限りです。日の出山から約1時間30分かけてつるつる温泉に到着しました。

つるつる温泉

体を洗うにも順番待ちが発生するほどつるつる温泉は多くの人で賑わっていました。ようやく温泉に浸かることができ「あーいい湯だなあ」と思わず声が出てしまいます。登山後の温泉ほど至福なひと時はないぐらい気持ち良いです。

記憶のとおりつるつる温泉は最高でした! 御岳山に来て余裕があったら是非立ち寄ってほしい温泉です(登山装備は必須)。最後は温泉内にあるお食事処でビールを飲みながら食事を済ませ、今回の山歩きは終了です。

生涯青春の湯 つるつる温泉:ホームページ

朝早く起きて、山を歩いて、温泉に入ってあとは家で寝るだけ。なんとも贅沢な一日でした。

【御岳山】ロックガーデン山歩き。ゆっくり歩くと見えてくる「小さな世界」の動画はこちらです。ロックガーデンまでの山歩きを収録しています。

御岳山ロックガーデンは季節を通じて何度も楽しめる場所

レンゲショウマの花やロックガーデンの緑豊かな景色を楽しみながら歩くことで、さまざまな発見がありました。周囲の植物や御岳山の歴史に意識を向けることで、これまで見えなかったものが見えるようになり、山の魅力を再認識することができました。私は高い山を目指したり、コースタイムを競うことよりも、自然観察をしながらゆっくりと山を楽しむことが好きです。

今回の山歩きで、どのような視点で山を歩くかによって見える景色が大きく変わることに気づきました。これからも自然を楽しみながら、新たな発見を求めて山歩きを続けていきたいと思います。

東京・御岳山に関わる本

今回訪れた東京・奥多摩に位置する御岳山は、その美しい自然景観と歴史的背景から、多くの人々に愛されています。御岳山についてもっと知りたい方におすすめの本をご紹介します。御岳山とは関連ありませんが、冒頭で紹介した「山の自然学」もぜひチェックしてみてください。

HIKES編集長の里山トラベル

HIKES編集長の山歩きをX(旧Twitte)rでも発信しています。山歩きをしながら地域の歴史を巡る里山トラベル活動をしています。フォローしてもらえると喜びます。

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