登山でお湯を沸かしたり、簡単な山ごはんを作るならガスバーナーは欠かせない装備のひとつ。特に寒い時期や標高の高い山では、温かい飲み物や食事がそのまま体力維持にもつながります。
とはいえ、登山用バーナーには一体型・分離型といった構造の違いだけでなく「軽さ」「風への強さ」「寒冷地での火力」など、選び方のポイントが多く迷いやすいギアでもあります。
この記事では、バーナーの種類や燃料の違いをわかりやすく解説し、UL志向・ソロ向け・冬山対応・グループ登山など、登山スタイル別の選び方をご紹介します。
ガスバーナーの種類とメリット・デメリット
登山用ガスバーナーは、大きく「一体型」と「分離型」の2種類に分けられます。それぞれ構造や携帯性、火力の安定性に違いがあり、登山スタイルによって適したタイプも異なります。ここでは、それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら見ていきましょう。
一体型バーナー

- 特徴:バーナーと燃料缶が一体化している
- メリット:軽量・コンパクト、設置が簡単、スタッキング性◎
- デメリット:重心が高く不安定、大型鍋には不向き、風に弱いモデルが多い
- 適した登山スタイル:ソロ登山/UL(ウルトラライト)装備/軽食・湯沸かしが中心
一体型バーナーは、燃料缶の上にバーナーを直接取り付けるシンプルな構造で、登山初心者にも扱いやすいのが特長です。コンパクトに収納できるモデルが多く、クッカーと一緒にスタッキングしてパッキングできるのも魅力です。
ただし、燃料缶の上に調理器具を乗せる形になるため、重心が高くなりやすく、大きな鍋や背の高いクッカーを使うと不安定になりがちです。また、風に対しての耐性は分離型に劣るため、防風対策(風防や風よけ地形の選定)が必要です。
分離型バーナー

- 特徴:バーナー本体と燃料缶がホースで分かれている
- メリット:重心が低く安定感あり、大型クッカーもOK、風に強いモデルが多い
- デメリット:やや重くかさばる、設置に少し手間がかかる
- 適した登山スタイル:グループ登山/冬山登山/本格調理を楽しみたい山行
分離型バーナーは、燃料缶とバーナー本体がホースで繋がれている構造で、地面にバーナーを直接設置するため重心が低く、安定性に優れています。大型の鍋やフライパンも安定して使えるため、複数人での調理や本格的な山ごはんにも対応できます。
火力が強く、防風性能や寒冷地対応に優れたモデルも多いため、冬山や標高の高い環境で使いたい人におすすめです。反面、一体型に比べると重く、収納時のかさばりや設営の手間がデメリットとなります。
登山用ガスバーナーの燃料の種類
ガスバーナーに使う燃料は、大きく分けて「OD缶」と「CB缶」の2種類があります。缶の形状だけでなく、価格・寒冷地での性能・入手性にも違いがあるため、自分の登山スタイルに合った燃料を選ぶことが重要です。
OD缶(アウトドア缶)
- メリット:
- 寒冷地や高所でも火力が安定しやすい
- コンパクトで頑丈、持ち運びやすい
- 寒冷地向けの「プレミアムガス(イソブタン配合)」も選べる
- デメリット:
- CB缶に比べて価格が高い
- メーカー間の互換性が基本的にない(専用品)
- 一般的な店では入手しづらく、事前準備が必要
OD缶は、冬山や標高の高い場所での使用に向いたアウトドア専用のガス缶です。気温が下がっても気化しやすく、安定した火力を維持できます。110g、250g、500gなどサイズ展開も豊富で、行動時間や装備重量に応じて使い分けが可能です。使用するバーナーと同じメーカーの缶を用意する必要があります。
CB缶(カセットボンベ缶)
- 特徴:家庭用のカセットコンロでも使われる細長いガス缶。CB=「Cassette Gas Butane」の略。
- メリット:
- 安価で入手しやすい(コンビニ・スーパー・ホームセンター等)
- 自宅でも使えるため無駄が出にくい
- メーカー間の互換性が比較的高い(ただしCB缶対応のバーナーに限る)
- デメリット:
- 接続部がむき出しで風に弱いバーナーもある
- バーナーとの接続がむき出しになりやすく、風に弱い場合も
- OD缶に比べ収納性がやや劣る(スタッキング(重ねて収納)しにくい)
CB缶は春〜秋の低山やハイキングなど、比較的気温が安定している環境に向いています。価格が手頃で入手も簡単なため、初心者が登山や山ごはんを始めるにはぴったりです。ただし、低温環境ではガスの気化が不十分となり、火力が大きく落ちるリスクがあるため注意が必要です。
ブランド別、登山におすすめのガスバーナー
バーナーはブランドごとに得意な特徴や設計思想が異なります。ここでは、国内外で評価の高い主要ブランドをピックアップして、それぞれの特長とおすすめモデルの方向性を紹介します。
SOTO(ソト)
高コスパ&防風性能に優れた国産ブランド
高コスパ&防風性能に優れた国産ブランド 登山者からの信頼が厚い日本ブランド。とくに防風性能に優れた「ウインドマスター」や、CB缶対応の「レギュレーターストーブ ST-310」は、価格・性能・扱いやすさのバランスが取れていて、登山からキャンプまで幅広く支持されています。
ウインドマスター SOD-310(OD缶対応)


約87gと超軽量ながら、3,260kcal/hの高火力を備えた一体型バーナー。バーナーヘッドがすり鉢状になっており、防風性能が非常に高い設計です。別売の4本ゴトクを組み合わせることで安定感が増し、幅広いクッカーにも対応可能。点火装置付きで扱いやすいのも魅力です。

(HIKES編集長)
レギュレーターストーブ ST-310(CB缶対応)
家庭用のカセットボンベ(CB缶)に対応していることから、燃料の入手性とコスパに優れたモデル。350gとやや重量はありますが、広めのゴトクで安定感があり、風にも強い構造。キャンプや自宅との併用もできるため、登山初心者にも選ばれる一台です。

(HIKES編集長)
PRIMUS(プリムス)
軽量&高耐久、UL登山にも人気の北欧ブランド
スウェーデン発の老舗アウトドアブランドで、登山・キャンプギアの定番。軽量で扱いやすく、高所や冬季にも対応できるバーナーが多く揃っています。コンパクトで信頼性の高いギアを探している人にとって、有力候補になるブランドです。
P-153 ウルトラバーナー(OD缶対応)
約110gと軽量ながら、安定した火力と操作性の良さでロングセラーとなっている一体型モデル。ゴトクは開くと広めで、コンパクトながら鍋をしっかり支えられる構造です。火力調整もしやすく、標高や気温が変わっても比較的安定しています。

(HIKES編集長)
エッセンシャルトレイルストーブ(OD缶対応)


極めてシンプルな設計で、軽量(約114g)・価格抑えめの初心者向けモデル。点火装置は付いていませんが、扱いやすくコンパクト。必要最低限の機能で済む人や、サブバーナーを探している人にも向いています。

(HIKES編集長)
EPIgas(イーピーアイガス)
厳冬期に強く、冬山派に選ばれる国産ブランド
雪山や高所対応に強い構造をもつモデルが多く、登山専門店でも定番。火力の安定性や耐風性が求められる場面での使用を想定したモデル設計がされており、冬山・悪天候に備えたい人に適した選択肢です。
REVO-3700ストーブ(OD缶対応)


火力3,700kcal/hの高出力バーナー。ゴトクが広めで安定感があり、風にも強い設計。重さは約110gで軽量さもキープしており、ソロでもグループでも使いやすい万能タイプ。

(HIKES編集長)
JETBOIL(ジェットボイル)
驚異的な燃焼効率と一体型クッカーで人気のシステムバーナー
アメリカ発のブランドで、熱効率を極限まで高めた“一体型”クッカーシステムが特長。風の影響を受けにくく、少ない燃料でお湯がすぐ沸くため、スピーディーな調理や湯沸かしに最適です。
JETBOIL FLASH(OD缶対応)


500mlのお湯を約100秒で沸騰させる高効率モデル。バーナー・ゴトク・クッカーがセットになっており、風防やヒートエクスチェンジャー一体型の設計で初心者でも扱いやすいのが特徴です。

(HIKES編集長)
登山用ガスバーナー選びで失敗しないためのチェックリスト
ここまで、登山用ガスバーナーの種類やブランドごとの特徴について紹介してきましたが、実際にどれを選ぶかとなるとやはり迷いがちです。初めての購入では、スペックや見た目、価格だけで決めてしまい、「風に弱い」「鍋が安定しない」「収納しにくい」といった使いづらさを感じるケースも少なくありません。
そこで、購入前にチェックしておきたいポイントを以下にまとめました。自分の登山スタイルに合った1台を選ぶための判断材料として、ぜひ参考にしてください。
チェック項目 | 選ぶ判断 |
---|---|
◻︎ 風が強くても点火しやすいか | 風防付きやすり鉢型のバーナーヘッド、自動着火装置の有無を確認。風の強い稜線でも安定して使えるかが重要です。 |
◻︎ コッヘルを乗せたときにグラつかないか | ゴトクの広さや形状、重心の高さをチェック。特に背の高いクッカーや鍋を使う場合は安定性がポイントになります。 |
◻︎ スタッキングしやすいか | 調理道具をクッカー内にまとめて収納できると荷物がコンパクトになります。登山ではパッキング効率も大切です。 |
◻︎ 登山スタイルに合っているか | UL装備、冬山対応、グループ調理など、山行の目的に応じて火力・構造・サイズを選びましょう。 |
軽量性だけで選ぶと風に弱く、火力重視で選ぶと重さやサイズがきになる。というのはよくある失敗例です。
「どんな登山で使うのか」「何を作りたいのか」を具体的にイメージしながら、今回のチェック項目を参考に、自分にとってベストな1台を選んでみてください。
登山用ガスバーナーは“自分の山スタイル”から選ぼう!
登山用ガスバーナーは、ただお湯を沸かすための道具ではなく、山での時間を豊かにしてくれる相棒のような存在です。軽量さを優先するのか、風や寒さへの強さを重視するのか、あるいは本格的な調理を楽しみたいのか──その答えは人それぞれです。
「どの山に行くか」「どんな料理を作りたいか」「どのくらい荷物を持てるか」といった、自分の登山スタイルを起点にして選ぶことで、失敗も少なく、満足感のある一台に出会えるはずです。
ガスバーナーを手に入れたら、ぜひ次の山行ではあたたかいコーヒーや熱々のスープを味わってみてください。きっと、それだけで山の楽しみ方が一段広がります。
里山の今と未来を考える『にっぽん里山紀行』連載中!
自然と人の関わり方が変わりゆくいま、私たちはどんなふうに山と向き合えばいいのか──。
『にっぽん里山紀行』では、登山や暮らしを通じて見えてくる地域の風景や文化、そこに生きる人々の営みを丁寧に描いていきます。
季節の移ろいや山の表情を感じながら、里山のこれからを一緒に考えていきましょう。
新しい連載が始まります。日本各地の里山を訪ね「地形」「暮らし」「文化」「現在」の4つの視点から、その土地の“いま”を記録していきます。
— HIKES編集部|山歩きと暮らしのマガジン (@ycommu) April 29, 2025
第一回は信州・安曇野。北アルプスの山麓に広がる水と緑の豊かな土地で、里山と人の営みを見つめます。#にっぽん里山紀行
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